カワイイはじめて コンタクト

やはり注射がきっかけで厳しく問いつめられ、ガンであることを告げたそうです。
「そんな大事なことを内緒にしていて…」とひどく叱られたけれど、「きっと君も苦しかっただろう」といって許してくれたそうです。 ガンであることが告げられた後、ご主人は猛然と原稿を書き始め、亡くなる前に1冊の本を書きあげました。
また生前に、自分のお葬式のときの会葬者への挨拶状をしたため遺されました。 美しい和紙に印刷されたその文章は、多くの人々に深い感銘をあたえたものです。
以上のようなKさんのお話を紹介したのは、闘病生活の間に、家族が病人とどう接したらよいか、悩み苦しむことが何度もあることを感じていただきたかったからです。 私は「もしばれたら、そのときはそのときじゃない。
家に連れて帰ってあげなさいよ」と助言しました。 これは他人だからいえたので、自分のことだったら私も同じように迷ったと思います。

結局ご主人は退院し、しばらく家で生活することになりました。 再び状態が悪くなって近くの病院に入院しましたが、亡くなる直前までわずかながらも食物を口にできたし、家族と話をすることもで射することになると思うし…そうするとばれちゃうから」と、退院するかどうかについて悩んでいました。
病人と接する上で、家族にとって何よりも要求されることは、「家族と病人の気持ちが、できるだけ離れないように努力すること」。 つまり、病人の気持ちを理解しようとする姿勢です。
ここで、死が近い病人の心の動きを分析考察した2人の学者の見解をご紹介しましょう。 病人の気持ちの理解に苦しむようなときに、家族の心の整理の手がかりとして、参考になるでしょう。
K・ロス(米国の精神科医)は、死が近い状態の多くの病人に面接して、その心理状態を分析しました。 その結果、病名が告知されてから、死に至るまでの期間に、病人が共通の心理的変化過程をたどることを発見し、それを死にゆく過程の一覧表としてまとめました。
その心理的変化の過程とは、否認←怒り←取引←抑欝←受容の5段階で、また、常に希望も存在していると指摘しています(このことを書いた本『死ぬ瞬間』S社刊は、日本でも多くの人々に読まれています)。 この5段階の心の動きは、誰にでも順序よく、また必ずすべての段階が現れる病人の心の動きを理解するためにもう1つ参考にしていただきたいのは、「恐怖と病状のパラドックス」現象があると述べているC・M・パークス(英国の精神科医)の考えです。
つまり「病状がまだそれほど進行していない段階で、病人の気持ちの中に、病気や死に対する恐怖感が強く現れる。 しかし病状が非常に進行した段階では、かえって恐怖感が弱まっているという状態になる」というのです。
たとえば、前述のYさんの例をとって説明しましょう。 Yさんは卵巣ガンの手術を受けたとき、悪性のものだったのではないかと家族や友人にさかんにたずねましたが、周囲の人々は、そんなに心配するのはYさんのとりこし苦労だと、なだめようとしました。
それから約1年半後に首のリンパ腺が腫れているのを自分で見つけたとき、Yさんの不安といらだちは非常に強くなりました。 しかしそのときはまだ日常生活に全く支障がなく、家事も1人でこなし、外出もできる状態。

まだ元気だからと考えた家族や友人は、病名を隠しつづけようとしスが述べている心の動きが、出始めることもあります。 すべての病人の気持ちを、この5段階のワクにあてはめてしまい、今はこの段階に進んで来たのだと考えたりすると、かえって誤解のもとになりますから気をつけましょう。
あくまでも家族の心の整理の手がかりとして思い出してみてください。 しかし、Yさんの心の中の不安やいらだちは、あとで考えると、そのときがピークだったようです。
その時期に、死に至るまでの自分の状態を考え、今後どこでどのような治療を受けるようにしたらいいかなど、先のことまで考えたようです。 それから約8か月後、すっかり衰弱して歩く力もなくなったときには、Yさんの心はかえっておだやかで、家族ともぎくしゃくすることなく過ごすことができたのです。
病状の進行が明らかになってしまったから、さぞ不安が強いのではないかという家族の心配に反して、そのときのYさんの心は、むしろおだやかだったのです。 パークスのいう「恐怖と病状のパラドックス」現象も、どの病人にも画一的に当てはまるものでないことは、いうまでもありません。
でも、病人と家族の心がくい違ってしっくり通じあわず悩んでいるときに、思い出してみると役立つ考え方のひとつです。 看病している家族にとっての最大の悩みは、ガン告知の問題です。
病名あるいは命が限られていることを、病人に知らせるか知らせないか。 家族の迷いや葛藤は深刻なものです。
また、知らせないようにしようと決めた場合の、知られないようにする努力も、大変な困難が伴うものです。 ガンの病名を告知するかしないかの議論は、新聞紙上やテレビなどマスコミでも、度々取り上げてきました。

そして、1989年6月16日、厚生省の「末期医療に関するケアのあり方の検討会」の報告書が初めて公表されました。 それによると、告知を望む声が増えてきつつあること、真実を告げることは患者が仕事をやりとげたり、遺言を残したりなど、残された時間を有効に使う上で有益な点が多いことなどを指摘し、現場の医師に対し、告知問題について一層積極的に取り組むべきだ、としています。
しかし、告知すべきかどうかは患者個々の状況によって異なるとも述べ、その際に医師が考慮すべき事項として、@患者が告知を強く望み、それが精神的不安の解消や死後の財産トラブルの防止などに役立つ。 A患者に告知を冷静に受け止める力がある。
信頼関係を保ち、限られた白々を望み通りに過ごすため。 D医師と患者・家族の間に信頼関係がある。
C告知後の患者の身体、精神面での介護、支援ができる。 などを提示。
これらの状況を十分に踏まえ、告知の表現方法、時期などにも配慮した対応をするよう求めています。 厚生省や日本医師会はこれを受けてすでに医師向けのマニュアルを作成。
今後、わが国の末期医療は、この報告の内容をもとに展開されていくことになります。 従ってこれからはあくまでも本人の各種の条件を考慮したうえで、告知した方がよいと考えられる場合は告知する、という意見の方が一般的になっていくでしょう。
従来は告知に消極的な医師の方が多かったのですが、今後は少しずつ変わっていくはずです。 さて、参考までに一般的なガン告知の問題を紹介しましたが、この項では告知する方がよいか、してはいけないかの議論をとりあげるのではなくて、告知に付随するいくつかの重要な問題を、一緒に考えてみたいと思います。
日本では、相手を思いやる気持ちをとても大切にしますし、そのことが親切であると考えます。 つまり、かわいそうだという気持ちの問題で判断すべきことではないのです。
これからの人生を「どう生きていきたいか」という考え方を基準に選ぶ必要があります。 そして、それを選ぶときに尊重されなければならないのは、「病人自身の気持ち」だと思います。


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